バードストライクという言葉を聞くと、飛行機が突然エンジン故障を起こして墜落する怖いイメージを抱く方も多いのではないでしょうか。バードストライクによる墜落事故の確率がどの程度なのか、ニュースで見かける悲惨なバード ストライク 墜落事故はどれくらい起きているのか、とても気になるところです。
一方で、実際に空を飛んでいる飛行機の便数は膨大で、その多くは何事もなく飛んでいます。対策エンジンの設計や空港側の鳥対策も進んでいるのに、なぜ防げないのか、なぜ起こるのかという疑問も浮かびます。
鳥の命の側から見れば、衝突して命を落とす姿はどうしてもかわいそうに感じられますし、エンジン内部で焼けてしまう現象が焼き鳥のようだと表現されることもあり、複雑な気持ちになるかもしれません。
また、バードストライクに関わる鳥の種類にはどんな傾向があるのか、もし自分が乗った飛行機でバードストライクが起きたらどうなるのか、バードストライクが起きたら機長や乗務員はどのように対応するのかも知っておきたいポイントです。
「バードストライクで墜落する確率は?」という素朴な疑問から、「バードストライクが多い空港はどこですか?」といった具体的な情報まで、知りたいことはたくさんあります。
この記事では、最新の統計や実際の事故例を踏まえながら、バードストライクによる墜落の確率について冷静に整理していきます。怖いイメージだけで判断するのではなく、リスクの全体像と対策を理解することで、航空機の安全性と、鳥との共存のあり方を一緒に考えていきましょう。
- バードストライクと墜落事故の実態と確率がわかる
- バードストライクがなぜ起こるのかメカニズムを理解できる
- エンジンを含む各種対策や防ぎきれない理由を学べる
- もしバードストライクが起きたら何が起こるかイメージできる
バード ストライクによる墜落確率の現実

- 代表的なバード ストライクによる墜落事故
- バードストライクで墜落する確率は?
- バードストライクはなぜ起こる
- 衝突しやすい鳥の種類
- バードストライクが多い空港はどこですか?
代表的なバード ストライクによる墜落事故
バードストライクがきっかけとなって航空機が大きな被害を受けた事例は、決して多くはないものの、歴史上いくつか印象的な事故として記録されています。多くのフライトは問題なく終了する一方で、どのような条件が重なると致命的な結果につながり得るのかを知っておくことは、リスクの全体像を理解するうえで有益です。
ここでは、代表的な主要事例を整理しながら、バードストライクと墜落の関係性を具体的にイメージできるよう解説していきます。
代表的な主要事例:
| 事故名 | 年・場所 | 主な原因・状況 | 死傷者の概要 |
|---|---|---|---|
| イースタン航空375便 | 1960年 米国ボストン | 離陸直後、ムクドリの大群が複数のエンジンに同時に吸い込まれ、推力を失って失速し海上へ墜落 | 62人死亡・10人負傷 |
| エチオピア航空604便 | 1988年 エチオピア | 離陸後まもなく鳥の群れを吸い込み、両エンジンが大きく損傷。胴体着陸を行ったものの機体が炎上 | 35人死亡・69人生存 |
| USエアウェイズ1549便 | 2009年 米国ニューヨーク | 上昇中にカナダガンの群れを両エンジンが吸い込み、ほぼ同時に全エンジン停止。ハドソン川へ不時着水 | 死亡者ゼロ・155人全員救助 |
| Jeju Air 2216便 | 2024年 韓国・務安 | 進入中に鳥との衝突が発生し、その後のゴーアラウンドと胴体着陸の過程で滑走路を逸脱。滑走路外の構造物へ衝突し大破炎上 | 179人死亡・2人生存 |
これらの事故の特徴を整理すると、いくつか共通点が浮かび上がります。まず、発生高度はいずれも離陸直後または着陸進入中といった、低高度でのフェーズです。この段階は飛行速度や高度の余裕が小さく、エンジン推力の喪失や操縦性の低下が致命的な結果につながりやすい時間帯です。
次に、単発的な鳥との接触ではなく、複数の鳥、あるいは大型の鳥の群れが同時に複数のエンジンや重要系統に影響を与えた点が共通しています。特にジェットエンジンは大きな吸気流を伴うため、群れが吸い込まれると内部のブレードやディスクが一度に損傷し、左右両側のエンジンが同時に停止することもあり得るでしょう。
この「多発・同時損傷」が致命的なリスクを高める要因です。
さらに、Jeju Air 2216便のような最近の事例では、
- 鳥の吸い込みによるエンジンや脚系統への影響
- ゴーアラウンドのタイミングや操作
- 滑走路末端付近に存在する外壁・構造物との位置関係
といった複数の要因が重なり合うことで、被害が拡大しています。単純に「鳥が当たったから墜落した」というよりも、「バードストライクをきっかけに一連の事象が連鎖し、結果として大事故に至った」という性格の事故が多い点も重要です。
一方、USエアウェイズ1549便のように、両エンジン停止という非常に厳しい状況でも、乗員の冷静な判断と事前訓練により全員が生還した例もあります。
同じように両エンジンを失っても、適切な対応によって致命的な結末を回避できたケースがあることは、バードストライクが必ず墜落死亡事故につながるわけではないことを示しています。
バードストライクで墜落する確率は?

バードストライクが怖いと感じられる一方で、「実際にどれくらいの確率で墜落につながるのか」は、感覚的なイメージだけでは判断しづらいテーマです。ここでは、世界的な統計にもとづいて、そのイメージをできるだけ数字で補っていきます。
米国連邦航空局(FAA)のまとめによると、1988年から2024年10月までの間に、軍民航空を合わせた世界全体で、野生動物との衝突に関連する死者は499人、破壊された航空機(修理不能の全損)は361機という記録が。
この統計には鳥以外の動物も含まれるものの、実際には大部分を鳥との衝突が占めています。一方、報告件数という観点で見ると、米国だけでも毎年2万件前後の野生動物ストライクが記録されており、1990年代からの累計は30万件を大きく超えている状況です。
その中で航空機が全損に至るケースや、死者を伴う事故はごく一部であり、多くは「一部の外板の凹み」「ライト破損」「軽微なエンジン点検の必要」といったレベルにとどまっているとされています。
さらに、鳥衝突による致命的事故の頻度を飛行時間単位で評価した研究では、民間航空全体の飛行時間から推計して、致命的な鳥衝突事故はおおよそ10億フライト時間あたり1件程度と見積もられている結果でした。
これは、航空事故全般の中でもかなり低い水準であり、統計的には極めて稀な事象に分類されます。欧州航空安全庁(EASA)がまとめた安全レビューでも、致命的事故の原因をカテゴリー別に分析した結果、機体へのバードストライクが主因として分類されるケースは、全体の0.数%程度にとどまると報告されています。
こうしたデータを整理すると、次のようなイメージが見えてきます。
- バードストライクそのものの発生頻度は決して少なくなく、世界全体では「日常的に報告される事象」である
- しかし、その中で航空機が大破・全損し、さらに死者を伴う事故に発展する割合はきわめて小さい
- バードストライクによる墜落の確率は「ゼロではないが、他の多くのリスクと比べてもかなり低い水準」に抑えられている
実際の運航では、航空会社と空港がバードストライクの報告を蓄積し、統計をもとに対策を更新し続けています。
たとえば、米国連邦航空局は野生動物ストライクに関するFAQや年次報告を公開し、具体的な件数・傾向・対策を詳細に分析しています(出典:米国連邦航空局 National Wildlife Strike Database FAQ)。
こうした仕組みにより、バードストライクが増加傾向にあっても、致命的な事故に至る確率は長期的に低いレベルに保たれていると考えられます。
バードストライクはなぜ起こる

バードストライクが起きる背景を理解するには、「飛行機の飛び方」と「鳥の暮らし方」という、二つの視点を重ねて見ることが役立ちます。
旅客機は離陸と着陸の際、必ず地表近くの空域を通過します。上昇・降下を行う高度帯はおおよそ地上0〜数百メートルで、この領域こそ、多くの鳥が餌を探したり、移動したり、休息したりしている生活空間です。
FAAがまとめたデータでは、野生動物ストライクのおよそ70%が地上0〜500フィート(約150メートル)以下で発生しているとされています。
一方で、鳥は空港を「危険だから避けるべき場所」と認識しているわけではありません。むしろ空港の敷地やその周辺は、鳥にとって「餌や水が手に入りやすい場所」になりやすい条件がそろっています。
- 草地や湿地:昆虫やミミズ、小型の動物が多く、採餌に適している
- 調整池・貯水池:水浴びや休憩場所として利用しやすい
- 近隣のごみ処理場や港湾施設:残飯や魚介類など、食べ物が豊富に集まる
これらの要素が組み合わさることで、滑走路周辺は鳥にとって居心地のよい環境になりやすく、結果として航空機の運航ルートとの重なりが増えてしまいます。
日本国内でも、年間1,000件を超えるバードストライクが報告されており、空港周辺の土地利用や環境変化、航空便数の増加などが背景要因として挙げられています。
参考資料:内閣府-航空機への鳥衝突(バードストライク)防止に向けた取組
さらに、ジェットエンジンの構造も、バードストライクのメカニズムに大な関係が。エンジン前方のファンブレードは、大量の空気を取り込むために高速で回転しており、その吸気流に近くを飛んでいた鳥が入り込むと、次のようなプロセスが一瞬のうちに進むのです。
- 鳥が吸気流に巻き込まれ、ファンブレードや圧縮機ブレードに衝突する
- 衝撃でブレードの一部が曲がる・欠ける・折れるなどの損傷が発生する
- 損傷したブレードを起点に振動が増幅し、エンジン内部のバランスが崩れる
- 振動や損傷からエンジンを守るため、出力制限や自動停止が行われる
多くの場合、損傷は軽度または一部に限られ、エンジンの停止まで至らないケースも少なくありません。しかし、大型の鳥や複数の鳥が同時に吸い込まれると、内部部品の破断や燃焼不良などが起こりやすくなり、エンジン停止や推力喪失につながるリスクが高まります。
要するに、バードストライクは「鳥が突然飛行機に向かってくる事故」ではなく、「鳥が自然な生活リズムで活動している空間の中に、人間の航空機が高頻度で出入りしている結果として生じる現象」と捉えることができるのです。
そのため、空港側の環境管理やバードパトロール、レーダー監視などの対策をどれだけ徹底しても、鳥の行動を完全に制御することは難しく、一定の確率で遭遇が起きてしまうという前提に立った安全設計が求められています。
衝突しやすい鳥の種類

バードストライクを具体的にイメージするうえで、「どんな鳥が衝突しやすいのか」を知っておくことは大きな手がかりになります。航空当局や研究機関が蓄積してきた記録を分析すると、体の大きさや行動パターン、空港周辺の環境といった要素が組み合わさり、衝突しやすい鳥の種類には明確な傾向があることがわかります。
まず、世界的に有名になったのがカナダガンです。USエアウェイズ1549便の事例では、離陸直後にカナダガンの群れを両エンジンが吸い込み、全エンジン停止に至りました。
カナダガンは一羽あたりの体重が3〜4kg以上になることもある大型の水鳥で、エンジンにとっては「鳥1羽」というより、固い物体の塊が高速でぶつかってくるのに近いインパクトになります。そのため、想定以上の衝撃となり得ることが指摘されています。
韓国のJeju Air 2216便では、事故後の解析の結果、バイカルカルガモという渡り鳥の羽毛や血痕がエンジン内部から検出されています。複数の鳥が左右のエンジンに同時に吸い込まれたことが確認されており、両側の推力喪失と脚系統への影響が重なったことで、大事故につながる典型的なパターンになりました。
このように「大型鳥×群れ×低高度」という条件が重なると、リスクが一気に高まります。
日本国内の統計では、以下のような鳥の種類が衝突頻度・被害度の面でよく名前が挙がります。
カモメ類(ウミネコ、オオセグロカモメなど):
港湾・海辺に近い空港で多く確認されます。魚や人間の食べ残しを求めて港湾施設や防波堤に集まる習性があり、海に近い滑走路と行動圏が重なりやすいことが特徴です。
カラス類(ハシブトガラスなど):
都市部や空港周辺のごみ処理場・緑地に集まりやすく、知能が高いため人間活動の多い場所でも積極的に餌を探します。ごみ置き場や農地など、多様な餌場を利用するため、空港と生活圏が重なりやすいグループです。
ハト類(ドバト、キジバトなど):
市街地型の空港で頻繁に見られる種です。駅前広場や公園、ビルの屋上など、人の多い場所での生活に適応しており、都市近接型の空港では滑走路周辺を飛行ルートとして通過することが少なくありません。
ツバメ・スズメなど小型鳥:
体は小さいものの個体数が非常に多く、滑走路周辺の草地や建物周りで頻繁に目撃されます。一羽あたりの質量は小さくても、群れで飛んでいるところに航空機が突入すると、合計質量が大きくなり、エンジン内部への影響が増すことがあります。
トビなどの猛禽類:
一羽あたりが大型で、衝突時の破壊力が大きいグループです。上昇気流を利用して滑空するため、滑走路周辺の上空を長時間漂うことがあり、機首やウインドシールド、主翼前縁などへの衝突が懸念されます。食べ物を探して道路脇や農地上空を飛ぶ習性も、空港周辺との重なりを生みます。
大型の水鳥や猛禽類は、一羽あたりの運動エネルギーが大きく、エンジンやウインドシールドに与えるダメージも深刻になりやすい傾向があります。運動エネルギーは「質量×速度の二乗」に比例するため、同じ速度で衝突した場合、大型の鳥ほど構造物に与える負荷が高くなるからです。
一方で、小型鳥でも群れで衝突すると合計質量が大きくなり、エンジン内部のブレード損傷や燃焼不良を引き起こし、結果としてエンジン停止につながることがあります。
このように、衝突しやすい鳥の種類は空港の立地環境や周辺の土地利用によって異なりますが、
- 個体数が多く、空港周辺に日常的に出現する鳥
- 一羽あたりの体重が大きく、衝突時のエネルギーが大きい鳥
この2つがリスクの中心になっていると理解しておくと、バードストライクのイメージがつかみやすくなるでしょう。どの地域でどの鳥が問題になりやすいかを把握し、その生態に合わせて対策を考えることが、安全性向上の土台となっています。
バードストライクが多い空港はどこですか?

バードストライクが多い空港を見ていくと、「離発着回数が多い」「周囲に鳥が集まりやすい環境がある」という2つの条件が重なっていることが多く見られます。単純なイメージだけで「特定の空港は危険」と判断するのではなく、どのような要因が件数に影響しているのかを知っておくことが大切です。
日本政府の資料では、日本国内では年間1,000件以上のバードストライクが報告されており、そのうち約1割が羽田空港で発生しているとされています。
羽田は国内外の便が集中するハブ空港で、発着回数が非常に多いことに加え、多摩川河口部の河川や干潟、埋立地の緑地といった鳥にとって魅力的な環境が周囲に広がっている状況です。都市部でありながら水辺と緑地が隣接しているため、多様な鳥類が行き来するエリアと言えます。(出典:国土交通省-各空港における鳥衝突防止対策)。
海外に目を向けると、米国の大都市空港や、インドのデリー、ムンバイ、ベンガルールなど、急速に航空需要が伸びている空港でもバードストライク件数が多いと報じられています。例えばインド南部では、2020〜2025年の間にバンガロールの空港だけで数百件規模の鳥衝突が記録され、国内でも上位に入る水準です。
背景には、周辺の湖沼・農地・都市開発が混在する独特の環境と、LCCを含むフライト数の増加があるとされています。
こうした空港に共通するのは、次のような条件です。
- 発着回数が多く、航空機が頻繁に低高度を通過する
- 近くに河川・湖沼・海岸線・湿地など、水辺環境が存在する
- ごみ処理場や市場、漁港など、鳥の餌となるものが集まりやすい施設がある
- 都市化と自然環境が隣り合い、多様な鳥類が生息している
ただし、「バードストライクが多い空港=危険な空港」という単純な図式にはなりません。発生件数が多い空港ほど、むしろ次のような特徴を持つ場合もあります。
- 報告体制が整っていて軽微な事例もきちんと記録されている
- バードパトロールやレーダー監視などの対策が充実している
- 対策の効果検証のために統計を積極的に公開している
このような空港では、バードストライク件数が「多いように見える」のは、報告や監視の精度が高く、安全文化が成熟していることの裏返しとも考えられます。
逆に、件数が少ない空港の中には、報告が軽微な事例まで十分に上がっていないケースもあり得るため、「公表されている数字の大小だけでリスクを評価しない」視点が欠かせません。
大事なのは件数そのものよりも、「どのような対策が講じられ、致命的な事態を未然に防いでいるか」という点です。
環境管理や鳥類調査、最新のレーダー・カメラによる監視、そしてパイロット・管制官・整備士を含めた運航全体の連携が重なり合うことで、バードストライクが多い空港でも、バードストライクによる墜落の確率を低い水準に抑え続ける仕組みが維持されています。
バード ストライクによる墜落の確率と対策

- バードスライク対策エンジン
- バードストライクはなぜ防げない
- バードストライクで鳥がかわいそう
- 「焼き鳥」と呼ばれる現象とは
- バードストライクが起きたらの対応
- 【まとめ】怖いバードストライクによる墜落の確率を総括
バードスライク対策エンジン
バードストライク対策の中核の一つが、エンジン側の安全設計です。機体の構造だけでなく、エンジンそのものが「鳥を吸い込んでも致命的な破壊につながらないこと」を前提に設計・認証されていることが、全体の安全性を支える土台になっています。
ジェットエンジンは開発段階で、鳥衝突を想定した耐久試験を受けます。試験では、体重が数百グラムから数キロまでの鳥の模型を圧縮空気でエンジンに撃ち込み、以下のような点が評価されます。
- ブレードが破断しても、破片がエンジン外殻(ケーシング)を突き破らないか
- 吸い込み後に火災や爆発的な故障に発展しないか
- 推力を失った場合でも、操縦可能な範囲でエンジンが停止し、機体全体の安全が保てるか
例えば米国の航空規則では、単発の大型鳥や複数の中型・小型の鳥を一定の速度で吸い込ませる試験が規定されており、そのうえで「エンジンが制御された状態で停止する」「残存推力で安全に飛行を継続できる」などの条件を満たすことが求められるのです(出典:FAA Advisory Circular 33.76-1B Bird Ingestion Certification Standards)。
実運用での基本的な思想は、次のように整理できます。
- 一部のブレードや部品が壊れても、破片が外部に飛び散らない構造にする
- バランスを崩したエンジンは自動的に停止させ、火災を防ぐ
- 片側のエンジンが停止しても、もう一方で安全に飛行・着陸できるよう冗長性を確保する
これは、エンジン単体の「強さ」だけでなく、機体全体のシステムとして安全性を確保する考え方です。
双発機であれば、片側のエンジンを失っても所定の条件下で上昇・巡航・着陸が可能であることが前提とされており、多くのバードストライクでは片側エンジンの損傷・停止にとどまり、旅客機は残ったエンジンで安全に空港へ引き返しています。
一方で、エンジンの吸気口に網や格子を付けて鳥の侵入を物理的に防ぐ案も過去に検討されました。直感的には「網で防げば安全」と思われがちですが、実際には次のような問題が指摘されています。
- 吸気効率が大きく低下し、必要な推力が得られにくくなる
- 網自体が空気抵抗となり、燃費や騒音に悪影響を与える
- 網に氷や雪、砂・小石などが付着すると、かえって異物吸入や失速のリスクを高める
- 逆噴射(リバース・スラスト)や非常時の運転モードにおける挙動が複雑になり、別の安全上のリスクを生む
このような理由から、吸気口に恒常的な網を設ける方式は主流の対策にはなっていません。実際の方針は、
- 「鳥が入ってしまう前提でエンジンを強くする」
- 「万一停止しても、機体側の冗長性で安全を確保する」
という二段構えでリスクを管理する形になっています。バードストライクを完全に防ぐことは難しくても、「エンジンがどのように壊れ、どのように安全側で停止するか」をあらかじめ設計・試験で定義しておくことで、バードストライクによる墜落の確率を大きく抑える仕組みが作られているのです。
バードストライクはなぜ防げない

空港ごとにバードパトロールや環境整備が行われているにもかかわらず、「バードストライクをゼロにできない」のはなぜかという疑問は自然なものです。ここには、生き物としての鳥の特性と、人間側の技術・運用の限界が複雑に関係しています。
第一に、鳥の行動が非常に変動的で、人間側から完全にコントロールすることが難しい点があります。渡りや繁殖期には移動ルートや高度が変化し、同じ種類の鳥でも年や季節によって「いつ・どこを・どのくらいの高さで飛ぶか」が変わるものです。さらに、天候や風向き、気温、餌の分布といった要因も日々の行動パターンに影響します。
近年はレーダーや高感度カメラを使って群れの動きを監視する取り組みが広がっていますが、レーダーで捕捉できない小規模な群れや、地形の影になる領域も存在します。高度・密度・進行方向をリアルタイムで完全に把握し、「危険な接近をゼロにする」レベルまで制御することは、現状の技術ではまだ達成されていません。
第二に、空港周辺がしばしば自然環境と都市環境の境界に位置している点も大きな要因です。
- 湿地や河川、海岸線が近くにある
- 農地や緑地、公園など餌場となる場所が点在する
- ごみ処理場や市場、物流拠点が近く、鳥にとって魅力的な食べ物が集まりやすい
こうした環境は生物多様性の観点では望ましい一方で、鳥の活動と航空機の運航が重なりやすい条件にもなります。これらをすべて「鳥のいない環境」に変えることは、現実的でもなく、環境保全の観点からも許容されません。
技術的な側面では、バードストライク対策専用レーダーや赤外線カメラの導入が進みつつあります。韓国ではJeju Air 2216便の事故をきっかけに、全国の空港に鳥検知用カメラとサーマルレーダーを段階的に設置する方針が打ち出されている状況です。
これにより、夜間や悪天候時でも鳥の群れを可視化し、管制やパイロットに警報を出す体制が整備されつつあります。
しかし、機器の導入・保守には相応のコストと専門人員が必要であり、すべての空港が同じ水準の設備を短期間で整えることは簡単ではありません。地方の小規模空港や、軍民共用空港などでは、段階的な導入が現実的な選択となります。
このように、生態系・技術・コスト・運航の安全を総合的にバランスさせながらリスクを下げているのが現在の姿です。そのため目標となるのは、「バードストライクを完全にゼロにする」ことではなく、
- 発生頻度を可能な限り減らす
- 発生したとしても、機体損傷や人的被害につながらないよう、設計と運用で備える
- 統計と事例分析にもとづき、バードストライクによる墜落の確率を長期的に見て限りなく低く抑える
という方向性です。空港と航空会社、管制機関、そして研究機関が連携しながら、完全防止ではなく「許容できる範囲までリスクを下げ続ける」ことが現実的な目標になっています。
バードストライクで鳥がかわいそう

バードストライクを考えるとき、多くの人がまず感じるのが「鳥がかわいそう」という感情です。安全対策や統計の話だけではなく、生き物としての鳥に何が起きているのかを知ることも、全体像を理解するうえで欠かせません。
統計的には、鳥衝突の多くは航空機にとって軽微なダメージで済みますが、鳥にとっては致命的な結果になる場合がほとんどだとされています。時速数百キロで飛行する金属機体との衝突や、ジェットエンジンへの吸い込みに耐えられる鳥はいません。
エンジン内部に吸い込まれた場合、骨や筋肉は粉砕され、高温と高速回転部によって短時間のうちに原形をとどめない状態になります。
さらに、衝突する鳥の中には、絶滅が懸念される希少種や、大型の猛禽類が含まれることも。
日本国内でも、北海道などでオジロワシやオオワシ、タンチョウといった大型鳥類が車両や電線、建造物との衝突によって命を落とす事例が増加傾向にあると分析されており、航空機との衝突が加われば、地域個体群への影響が無視できなくなる可能性も指摘されています。
こうした状況を踏まえ、航空安全と鳥類保護を両立させるための取り組みも進んでいます。
- 空港側で鳥の生息状況を継続的にモニタリングし、保護が必要な種への影響を評価する
- 鳥を単に追い払うだけでなく、繁殖地や餌場の配置を調整し、空港滑走路から距離を取れるような環境デザインを行う
- 自然保護団体や鳥類研究者と連携し、鳥類保護計画と空港運用計画をすり合わせる
具体的には、滑走路周辺の草地の高さを調整して特定の鳥が好まない植生に変える、調整池の形状や水位を変えて水鳥が長時間滞在しにくくする、ごみ処理施設の管理を強化して餌となる廃棄物を即時に処理するなど、鳥が「そこに居座り続けなくてもよい」環境づくりが重視されています。
人間の安全を守るために鳥を完全に排除することはできませんが、鳥の命を軽視せず、被害を可能な限り減らそうとする姿勢が大切なのです。バードストライク対策は、「鳥か人間か」の二者択一ではなく、
- 航空機の安全設計と運航で人命リスクを抑える
- 空港周辺の環境管理とモニタリングで鳥の犠牲を減らす
- 保全が必要な種に対しては、追加の配慮や保護策を講じる
という三つの方向性を同時に進めることで、現実的なバランスを模索している取り組みだと捉えることができます。
「焼き鳥」と呼ばれる現象とは

航空関係者の間では、エンジンに鳥が吸い込まれたときの状況を半ば自嘲気味に「焼き鳥」という表現で語ることがあります。専門的にはバードインジェスション(bird ingestion)と呼ばれる現象ですが、現場ではショッキングな出来事をあえてユーモラスな表現で包むことで、心理的なストレスを和らげようとする側面があるようです。
ジェットエンジンの内部、とくに燃焼室や高圧タービン付近では、ガス温度が1,000〜1,500℃前後に達することもあり、金属部品ですら特殊な耐熱合金でなければ耐えられません。
こうした超高温・高圧の環境に鳥が吸い込まれると、体はファンブレードや圧縮機ブレードで瞬間的に粉砕され、その後、高温ガスにさらされて多くが焼け焦げた状態になります。このときに発生する独特の焦げたにおいが、現場で「焼き鳥」と表現されるゆえんです。
もちろん、実際に食用の焼き鳥になるわけではなく、機内や整備現場で感じられるのは、動物組織が高温で燃焼・炭化した際のにおいに過ぎません。
航空業界では、事故やトラブルにブラックユーモア的な呼び名が付くことがありますが、その背景には強い緊張状態に置かれる現場の人々が、精神的な負担を少しでも軽くしようとする文化があるからです。
一方で、その言葉の裏側には「鳥の命がそこで失われている」という厳しい現実があるため、安易な笑い話として扱うべきではないという見方も根強く存在します。
技術的な観点から見ると、エンジン内部で鳥が焼けてしまう現象自体は、航空の安全性に直結する重要な検査対象です。実際のバードストライク後には、整備士や専門機関が次のようなプロセスを踏んで分析を行います。
- エンジン内部の残留物(羽・骨・肉片)を採取し、どの鳥種かを特定する
→ これらの残渣は英語圏では「スナージ(snarge)」と呼ばれ、DNA解析や羽根の形態学的鑑定によって種の同定が行われます。どの鳥種がどの空港で問題になっているかを把握することは、空港側の鳥類対策に直結します。 - 損傷したブレードやケースを詳細に分析し、設計の改善に生かす
→ 衝突位置や変形パターン、破断面の観察から、どの程度の質量・速度の物体がどの方向から侵入したのかを推定し、次世代エンジンの設計や認証試験条件の見直しに役立てます。 - 同様の事故を防ぐために、空港側の鳥対策にフィードバックする
→ どの時間帯・高度・滑走路でどの種が衝突したのかという情報は、バードパトロールの重点時間帯・重点区域、草地管理や水辺整備の方針などに反映されます。
このように、「焼き鳥」という俗称で語られる現象は、単なる現場の言い回しにとどまりません。鳥の残留物やエンジン損傷の一つひとつの事例がデータとして蓄積され、エンジンの安全設計や空港の環境管理にフィードバックされることで、バードストライクによる墜落の確率をさらに下げるための基盤となっています。
言葉だけを切り取ると軽く聞こえますが、その背後では、地道な安全向上の取り組みが続けられているのです。
バードストライクが起きた際の対応

実際にバードストライクが起きた場合、機長や乗務員、地上スタッフがどのように動くのかを知っておくと、万が一の際のイメージがつかみやすくなります。世界中の航空会社で手順に多少の違いはありますが、基本的な流れは共通した考え方に基づいているからです。
まず、パイロットは異常音や振動、計器の警告、鳥がぶつかる瞬間の視認情報などからバードストライクの可能性を察知します。離陸滑走中であれば、エンジン出力・加速状況・滑走路残長などを瞬時に照合し、「離陸を続行するか、それとも中止するか」を判断する流れです。
この判断には、機種ごとに定められた決心速度(V1)が重要な基準となり、それより前なら中止、後なら原則として離陸続行というルールに従って行動します。
離陸直後で空中にいる場合には、推力計(N1・N2など)やエンジン振動計の値、エンジン警報の有無を確認しながら、片側エンジンの推力が十分に残っているかを評価します。
安全上許容できると判断されれば、上昇を継続しつつチェックリストに沿った緊急手順(QRH:Quick Reference Handbook)を実施し、最寄りの適切な空港への着陸を計画するのです。
USエアウェイズ1549便では、両エンジンがほぼ同時に停止したため、パイロットは空港への帰還ではなく、ハドソン川への不時着水を選択しました。これは、残された高度と距離、風向・風速、滑空性能などを短時間で計算したうえでの判断であり、手順に従った対応が結果として全員の生還につながった例として知られています。
最近の事例では、ニューヨークのラガーディア空港発の旅客機が片側エンジンに鳥を吸い込み、火炎を伴うトラブルを起こしたものの、パイロットが緊急事態を宣言して近隣の空港に安全に着陸しています。
このようなケースでは、エンジン火災・エンジン異常に関するチェックリストがあらかじめマニュアル化されており、乗務員は定期的なシミュレーター訓練で身につけた手順に従って、燃料遮断や火災警報の監視、推力配分の管理などを冷静に実施します。
Jeju Air 2216便のように、バードストライクの後に複数の要因が重なり、大事故に発展してしまうケースもあります。
この事故を受けて、韓国政府は全国の空港に鳥検知用レーダーやカメラの導入を進める方針を示し、滑走路末端の構造物配置の見直しや、ゴーアラウンド時の運航手順の検証など、システム全体での安全性向上策を打ち出している状況です。
多くの国や地域では、航空局が野生動物ストライクの報告制度や対応マニュアルを整備しており、例えば米国では連邦航空局(FAA)がWildlife Strike DatabaseやWildlife Hazard Managementマニュアルを通じて、空港・航空会社へのガイダンスを提供しています(出典:米国連邦航空局『Wildlife Hazard Management at Airports』)。
乗客側の視点から見ると、バードストライクが起きても、客室内では「ドン」という音や振動、まれに軽い焦げ臭さを感じる程度で、具体的な操作はすべて乗務員と地上の管制が担います。
客室乗務員は、コックピットからの情報を受けて機内アナウンスを行い、乗客にシートベルト着用や荷物の収納、非常時姿勢の取り方などを案内します。
このような状況で乗客に求められるもっとも現実的で有効な対応は、機内アナウンスの指示に従い、シートベルトをしっかり締めて落ち着いて行動することです。無理に窓の外を確認しようと立ち上がったり、勝手に荷物を取り出したりすると、かえって怪我のリスクが高まります。
航空会社と空港は、バードストライクを含むさまざまな異常事態を想定した訓練を繰り返しており、その手順にもとづいて対応が進められるため、乗客が冷静さを保つことが安全の一部を担うことにつながります。
着陸後は、航空会社や整備部門がエンジンや機体の詳細点検を実施し、必要があればエンジン内の残留物を採取して鳥種の特定や損傷評価を行います。同時に、運航会社や空港、航空当局に対してバードストライクの報告書が提出され、データは統計として蓄積されます。
こうして集められた情報が、次の運航の安全性向上や、バードストライクによる墜落の確率を一層低く抑えるための対策に生かされているのです。
【まとめ】怖いバードストライクによる墜落の確率を総括
この記事のポイントをまとめます。
- バードストライクは多いが墜落確率は極めて低い
- 致死事故は全体の中でごくわずかな割合に留まる
- 致命事故は低高度で群れ吸い込み時に起こりやすい
- 大事故は鳥衝突に他の要因が重なって発生している
- 両発停止でも冷静な判断で全員が救われた例がある
- 空港周辺環境と低高度飛行が衝突の背景となる
- 大型水鳥や都市型の鳥が主要なリスクとなる
- エンジン冗長設計が墜落確率の低減に貢献している
- 網やシールドは安全上の課題で普及していない
- 空港対策は完全防止ではなく低減を重視している
- 鳥の犠牲も大きく生態系配慮の取り組みが必要
- 焼き鳥現象の残骸分析は重要な技術資料となる
- パイロットは標準手順に沿い安全確保を最優先する
- 乗客は低い墜落確率を理解し指示に従うことが重要
最後までお読みいただきありがとうございました。
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