F35B戦闘機の垂直離陸の仕組みと運用の現実~短距離離陸の違い~

着艦体制のf35垂直離着陸機

F-35B戦闘機の垂直離陸の仕組みについて調べていると、「垂直離陸ができない」と言われる理由や、そもそもどんな技術で垂直離陸を実現しているのかが気になってきます。

また、実際の運用では垂直着陸がどう行われるのか、短距離離陸に必要な距離はどれくらいなのかも知りたいところです。

さらに、F-35Bにはどんな弱点があるのか、通常離陸時の騒音はどの程度か、護衛艦いずもには何機搭載できるのかといった実用面の疑問、そして垂直離着陸機全般の種類やデメリットまで押さえることで、F-35Bの特性や位置づけがより立体的に見えてきます。

この記事を読んでわかること
  • 垂直離陸が実運用で選ばれにくい理由がわかる
  • リフトファン方式の垂直離陸の仕組みが整理できる
  • 垂直着陸と短距離運用の違いと使い分けがつかめる
  • 騒音・弱点・いずも型の搭載目安まで俯瞰できる
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目次

F35Bの垂直離陸~仕組みの基本~

f35垂直離着陸機の着陸を誘導する海上自衛隊スタッフ
ボクのヒコーキ・イメージ
  • 垂直離陸の仕組みを手順で理解
  • 垂直離陸はできないと言われる理由
  • 垂直着陸の流れと注意点
  • 短距離離陸距離の目安は?
  • 垂直離着陸ができる飛行機一覧

垂直離陸の仕組みを手順で理解

F-35Bの垂直離着陸能力は、ハリアーのように排気ノズルの推力偏向だけで機体を支える方式ではなく、機体内部にリフトファンを組み込んだリフトシステムで成立します。

特徴は、前方のリフトファンと後方の回転ノズル、そして左右のロールポストが同時に働き、推力の配分と姿勢制御をコンピューターが統合して行う点にあります。この仕組みを理解する近道は、部品の名前を覚えるより先に「どの順番で、どの推力が、どこに作用するのか」を手順として追うことです。

垂直離陸(厳密にはホバリング状態への移行)までの流れは、概ね次のように整理できます。

  • STOVLモードに切り替えると、リフトファンの上部吸気ドアと下部排気ドアが開きます
  • 同時に、エンジンからの動力を前方に送るクラッチが接続され、ドライブシャフトが回転を伝達します
  • 後部の推力偏向ノズルが下向きに回転し、後方の垂直推力を作ります
  • 主翼付近のロールポストからバイパス空気を噴射し、左右の傾き(ロール)を抑えます
  • フライトコンピューターが推力を連続的に微調整し、機体を水平に保ちながら浮上させます

数値のイメージを持つと理解が一段深まります。たとえばリフトファンは約20,000 lbf(ポンドフォース)級の「冷たい推力」を担い、後部ノズル(3ベアリング・スイベル・モジュール)は約18,000 lbf級の「熱い推力」を下向きに振り向けるのです。

左右のロールポストが合計で数千 lbf級の推力で姿勢を整えており、こうした推力の”分業”があるため、単にエンジンの噴射を下に向けるだけの機体より、ホバリング時の安定性を高めやすい設計となっています。
(出典:Rolls-Royce 公式「LiftSystem」

以下では、リフトシステムを構成する主要要素を4つに分けて、役割と動き方をもう少し丁寧に見ていきます。

リフトファンで前方を持ち上げる

F35Bの垂直着陸の仕組み
写真で学ぶ航空機のモノづくりより引用

コックピット後方に縦置きで搭載されたリフトファンは、F-35Bの垂直モードを象徴する装置です。ファンが吸い込むのは外気で、排気ガスではありません。ここが直感的に重要で、前方は「比較的低温で大流量の下向き気流」によって持ち上げる設計になっています。

結果として、同じ推力を作る場合でも、細い高温ジェットだけで支えるより地面への熱負荷を抑えやすく、推力の効率(推力あたりの流量)も稼ぎやすくなります。

動作は、次の3点を押さえると分かりやすいです。

  • 通常飛行中はクラッチで切り離され、ファンは推進に寄与しません
  • STOVLモードでクラッチが接続され、エンジンの回転エネルギーがドライブシャフトで伝達されます
  • 上面の吸気ドアが開いて空気を取り込み、下面の排気側から下向きに噴き出して揚力を作ります

技術的な要点は「推力を作る場所が機体の前方にある」ことです。後部ノズルの下向き推力だけで機体を支えると、重心位置との関係でピッチ(前後の傾き)が不安定になりやすくなります。そこで、前方に大きな揚力源を置き、後方のノズルと“前後2点支持”に近い状態を作ることで、ホバリング中のピッチ安定性を取りやすくしています。

また、垂直離着陸で怖いのは「ちょっとした姿勢変化が、推力の向きと機体の動きに増幅して出る」点です。リフトファンは低温の大流量で推力を稼ぐため、推力の微調整が比較的穏やかに効き、姿勢制御の余裕を作るのに役立ちます。

要するに、リフトファンは単に前を持ち上げる装置ではなく、ホバリングを安定させるための“操縦余裕”を作る装置でもあります。

後部ノズルを下へ向けて後方を支える

F-35Bの後部ノズル
写真で学ぶ航空機のモノづくりより引用

F-35Bの後部には、推力偏向を担う3ベアリング・スイベル・ノズル(3BSM/3BSDと呼ばれることもあります)が搭載されています。通常のジェット機では排気は後方へ一直線に出ますが、F-35Bでは垂直モードに入るとノズルが下向きへ回転し、後方の垂直推力を作ります。

ここで押さえたいのは、後部ノズルが担う役割が「単なる後ろの揚力」だけではない点です。

  • 前方のリフトファンと組み合わせて、前後の揚力バランスを作ります
  • ノズル角度の微調整によって、前進・後退方向の力(水平成分)も作れます
  • 推力の大部分を担うため、わずかな角度変化でも機体挙動に影響が出ます

垂直モードでは、機体は翼の揚力をほとんど使いません。したがって、機体を支えるのは推力の“合計値”だけでなく、“推力の作用点”がどこかも同じくらい大切です。後部ノズルは重心より後ろ側で大きな力を出すため、前方のリフトファンと釣り合うことで機体が水平を保ちます。

さらに、運用面で注意されるのが熱と地面影響です。後部ノズルの噴流は高温で速度も高く、甲板や路面への熱負荷を増やしやすい要素になります。耐熱コーティングなどインフラ側の対策が必要になるのは、この後部噴流が大きな要因です。

つまり後部ノズルは、推力の主役であると同時に、運用制約(熱・騒音・異物巻き上げ)を強めやすい要素でもあります。

ロールポストで左右の傾きを微調整する

左右のバランスをとるF35B戦闘機の垂直着陸
写真で学ぶ航空機のモノづくりより引用

ホバリング中に最も分かりやすく不安定になるのが、左右の傾き(ロール)です。前方のリフトファンと後方のノズルだけでは、力の作用点が機体中心線上に寄りやすく、左右に傾いたときの“戻す力”を作りにくくなります。

そこでF-35Bは、左右の主翼付近にロールポストを持ち、エンジンのバイパス空気を下向きに噴射して姿勢を整えます。

ロールポストの理解は、次のように置き換えると直感的です。

  • リフトファンと後部ノズルは「上下を支える柱」
  • ロールポストは「左右に傾かないよう支える補助の足」

ホバリングでは、ちょっとした横風や乱流、地面反射流(地面効果)で、機体が片側に押されることがあります。片側に傾くと、推力の向きが真下からズレて、さらに横移動や傾きが増幅されやすくなるのです。ロールポストはこの”増幅の入口”を小さくする役割を担っています。

また、ロールポストは左右の制御だけでなく、操縦性にも効いてきます。パイロットが垂直モードで細かい姿勢を保とうとすると、通常の固定翼飛行より制御入力が増えがちです。ロールポストが即応性のある微調整を担うことで、操縦入力が過剰になりにくく、安定した下降や定点保持につながります。

要するに、ロールポストは「最後の微調整」ではなく、ホバリングを成立させる前提条件に近い存在です。

フライトコンピューターが自動で姿勢を維持する

空母に着艦する戦闘機のフライトシミュレーター
レスポンス(Response.jp)より引用

垂直モードは、固定翼機としては本質的に不安定な領域です。翼の揚力が使えず、推力の合力だけで姿勢と位置を保つため、入力と反応が短い時間でループします。人間の感覚と反射だけで“常に最適”を維持するのは現実的ではありません。

そこでF-35Bは、フライトコンピューターが推力の配分と姿勢安定を連続的に実施する設計になっています。

具体的には、次のような制御が同時並行します。

  • 前方リフトファンと後部ノズルの推力配分を変え、ピッチを安定させる
  • 左右ロールポストの噴射量を調整し、ロールを抑える
  • ノズル角度やファン側のベーン制御で、微小な水平移動やヨー挙動を抑える
  • 乱流や横風、地面効果による外乱を検知し、補正量を上乗せする

読者が不安に感じやすいのは「コンピューター任せで本当に大丈夫なのか」という点ですが、ここは逆に、人間の手動操作だけに依存すると安全余裕が小さくなる領域だと捉えるほうが実態に近いです。

垂直モードでは、わずかな傾きが推力方向のズレに直結し、位置ずれや降下率変化を招きます。コンピューターが高頻度で補正することで、パイロットは大局的な操作(上げる・下げる・位置を合わせる)に集中しやすくなります。

整理すると、前で吸って下へ吹き、後ろで熱いジェットを下へ曲げ、左右の微調整を噴流で行い、最後はコンピューターが全体をまとめ上げる、という構図になります。これがF-35Bの垂直離着陸を支える基本メカニズムです。

さらに踏み込むなら、F-35Bの垂直モードは「部品の能力」だけで成立しているのではなく、「統合制御で余裕を作る設計思想」によって成立している、と理解すると全体像が掴みやすくなります。

垂直離陸はできないと言われる理由

両手で×を作る海上自衛隊員の女性スタッフ
ボクのヒコーキ・イメージ

F-35Bは技術的に垂直離陸が可能です。ただし、実戦に近い状態では垂直離陸ができない、あるいはやらないと言われるのには、はっきりした運用上の理由があります。誤解が起きやすい点なので、できないの意味を分解して理解するとスッキリします。

推力と重量の余裕が小さい

垂直離陸は、機体重量を推力だけで支える必要があります。F-35Bのリフトシステムは垂直推力に上限があり、機体そのものの重量に、燃料と兵装を足していくと上限に近づきやすくなります。つまり、満タンやフル装備の状態では余裕がなく、燃料や兵装を大幅に削らないと成立しにくいのです。

このため現場では、垂直離陸は可能ではあるものの、作戦性を満たす搭載量を確保しづらい離陸方法として扱われがちです。

燃料消費が激しく作戦距離を削る

垂直離陸は最大出力に近い状態を使うため、燃料を短時間で消費します。離陸した時点で行動半径が目に見えて削られると、せっかくのステルス機としての価値を生かす前に余裕がなくなるのです。短距離滑走離陸で翼の揚力を借りたほうが、同じ燃料でも実用的な飛び方になります。

甲板や地面への負荷と安全面の制約

下向きの強烈な噴流は、路面や甲板を痛めるリスクがあり、砂塵や異物の巻き上げも起きやすくなります。吸い込みによるエンジン損傷リスクが増える点も無視できません。さらに、運用面では周辺環境への騒音負荷も大きくなりやすいです。

だから標準は短距離滑走離陸になる

F-35Bは分類としては垂直離着陸機に含められますが、運用の中心は短距離離陸・垂直着陸です。垂直離陸は、軽荷状態での試験・訓練・デモンストレーションとしては成立しても、実戦的な搭載量と行動半径を両立させにくい、という整理が現実に近い見方です。

垂直着陸の流れと注意点

自衛官の制服を着た園児たちを数える保母さん
ボクのヒコーキ・イメージ

垂直離陸は制約が大きい一方で、垂直着陸はF-35Bの強みが発揮されやすい局面です。理由は単純で、任務後は燃料や兵装を消費して機体が軽くなっているため、推力に余裕が生まれやすいからです。基地や艦の制約が大きい環境でも、着陸地点にピンポイントで降ろせることが価値になります。

垂直着陸の流れは、概ね次のように捉えると理解しやすいです。

進入からSTOVLモードへの移行

まずは通常飛行で進入し、速度と高度を落としながらSTOVLモードに切り替えます。切り替えに連動してリフトファンのドアが開き、クラッチが接続され、後部ノズル角度が変化し、ロールポストが作動できる状態になるのです。ここはボタン操作に見えても内部では自動シーケンスが走っています。

ホバリングで位置を合わせる

推力の前後バランスを取りながら空中停止に近い状態を作り、着陸点の上空で位置を微調整します。操縦者は細かい姿勢制御をすべて手で行うのではなく、コンピューターが安定化を担う前提で、降下率や位置合わせをコントロールするイメージです。

垂直降下して接地する

高度を下げ、脚が接地した瞬間に推力をさらに絞って機体重量を脚に移し、完全に停止させます。垂直着陸は最後の数十メートルが最も繊細で、横風や乱流、地面効果の影響も受けやすくなります。

注意点としては、騒音と熱の負荷が大きいこと、地面や甲板の耐熱対策が必要になりやすいことです。訓練の回数や時間帯が地域環境に与える影響が大きいことが挙げられます。国内でも、垂直着陸訓練の実施要領や負担軽減策が資料として公表され、運用の前提条件が整理されています。

短距離離陸距離の目安は?

滑走路を見つめる自衛隊の女性パイロット
ボクのヒコーキ・イメージ

短距離離陸距離は、F-35Bを理解するうえで最も誤解が生まれやすい数字の一つです。なぜなら、必要距離は固定ではなく、機体重量、気温、風、甲板の状態、さらには運用上の安全性で変わるからです。

一般的な理解としては、翼の揚力を活用する短距離滑走を行えば、垂直離陸よりはるかに実用的な搭載量を確保しやすくなります。艦上運用では、向かい風を作れる環境で離陸性能を稼げるのも大きいです。

国内の説明資料では、通常離陸が約20秒滑走、短距離離陸が約10秒滑走といった形で、時間ベースで比較されることがあります。距離そのものが明記されない場合でも、同程度の加速条件であれば短距離離陸は通常離陸より短い滑走で成立する、という考え方からです。

短距離離陸距離を目安として掴むために、条件別の見え方を表にまとめます。

条件の違い必要距離の傾向影響が大きい要素
軽荷での短距離離陸短くなりやすい燃料量、兵装、気温
作戦搭載での短距離離陸中程度になりやすい兵装重量、向かい風
重量が大きい場合長くなりやすい機体総重量、安全余裕
スキージャンプあり短縮しやすい甲板形状、風況

要するに、短距離離陸距離は単一の数字で断定するより、条件で振れる幅として捉えるほうが実態に近いです。F-35Bの本領は、限られた距離でも現実的な搭載量で飛び立てる点にあります。

垂直離着陸ができる飛行機一覧

ベンチからジャンプする幼稚園児
ボクのヒコーキ・イメージ

垂直離着陸ができる飛行機は、同じVTOLでも方式が異なるため、何がどこまでできるかが一様ではありません。たとえば「その場でふわっと浮き上がれる」ことだけに注目すると同じに見えますが、実際には、推力を生み出す位置、推力の向きを変える仕組み、姿勢を安定させる制御の考え方が大きく違います。

固定翼の高速性と垂直離着陸を両立させるには代償が伴い、機体重量の増加、燃料や搭載量の制約、整備性の難しさ、そして運用環境(熱・騒音・ダウンウォッシュ)への配慮が避けられません。その結果、実用化され、継続して運用されている機体は限られます。

また、VTOLという言葉は便利な反面、読み替えが起きやすい点にも注意が必要です。垂直離陸ができる機体でも、実運用では短距離滑走を基本にする場合がありますし、垂直着陸はできても垂直離陸は搭載量次第で制約が強い機体もあります。

この記事のテーマであるF-35Bがまさにその典型で、技術的には垂直離陸が可能でも、作戦的には短距離離陸・垂直着陸の使い分けが中心になります。

代表的な分類は次の通りです。

リフトファン方式

着陸態勢の垂直離着陸機
F-35B:FlyTeamより引用

F-35Bが代表例です。エンジン出力でリフトファンを回し、前後の推力で機体を支えます。ここでの肝は、前方のリフトファンが「低温で大流量の推力」を作り、後方は回転ノズルで「高温のジェット推力」を下向きに振り分けるという分業にあります。

この方式は、前後に揚力源を配置できるため、ホバリング時のピッチ安定を取りやすいことが利点です。さらに、左右のバランスを整えるための補助噴射(ロールポスト)も組み合わせ、フライトコンピューターが推力配分を高速に調整することで、垂直モードの不安定さを抑えます。

一方で、機構が複雑で重量増につながりやすい傾向があります。リフトファン、ドライブシャフト、クラッチ、開閉ドア類、推力偏向ノズルなど、通常の固定翼機にはない要素が増えるため、機体内部スペースや整備計画にも影響するのです。

そのため、リフトファン方式は「垂直離着陸の性能を得る代わりに、燃料搭載量や内部スペース、整備負担に制約が出やすい方式」と理解すると、F-35Bの特性が整理しやすくなります。

推力偏向方式

飛行中のハリアー戦闘機
ハリアー戦闘機:乗りものニュースより引用

ハリアー系が代表例です。エンジン排気を複数ノズルで下向きに分配し、直接推力で浮上します。概念としては分かりやすく、推力の向きを変えるという一点に集約されるため、仕組みの全体像を掴みやすい方式です。

ただし、排気ジェットをそのまま下向きに使うため、地面・甲板への熱負荷や異物の巻き上げといった運用上の制約が出やすくなります。加えて、垂直モードから水平飛行への移行や、横風下での姿勢維持には高い操縦精度が求められ、訓練・手順・安全管理の設計が欠かせません。

推力偏向方式は、垂直離着陸を成立させるために機体の空力設計や重量配分にも制約が生じます。固定翼機としての性能と、垂直運用の要求を同時に満たす必要があるため、設計上の自由度が小さくなりやすい点は押さえておきたいポイントです。

ティルトローター方式

飛行中のV-22オスプレイ
V-22オスプレイ:FlyTeamより引用

V-22のように、ローター角度を変えて垂直離着陸と水平飛行を切り替えます。垂直モードではヘリコプターのように浮上し、水平飛行では固定翼機に近い速度・航続距離を狙う方式で、両者の強みをつなぐ発想が特徴です。

この方式は、固定翼の高速移動と「滑走路に縛られない運用」を両立しやすいため、輸送・救難・災害対応などで価値が出やすい一方、戦闘機のように高機動・小断面積・高G運用を主目的とする機体とは設計思想が異なります。そのため、戦闘機というより輸送機の領域で活躍する機体です。

また、ティルトローターは遷移飛行(垂直から水平、水平から垂直へ切り替える局面)が運用の要になります。遷移中は空力状態が連続的に変化するため、制御設計・冗長性・整備品質が重要になるのです。VTOLの中でも「機体と制御の総合技術」で成立する方式だと捉えると、強みと難しさが理解しやすくなります。

eVTOL

米ジョビー・アビエーションが開発するeVTOL
米ジョビー・アビエーションが開発するeVTOL:日本経済新聞より引用

電動モーターとプロペラを組み合わせた開発が進んでいます。都市交通など民間用途の色合いが強く、軍用固定翼機の運用思想とは別カテゴリとして見るのが適切です。

eVTOLの特徴は、推進を電動化し、多数のローターを分散配置する設計が多い点にあります。分散推進は冗長性(どれか一つが不調でも安全余裕を確保する考え方)を取りやすい反面、エネルギー源であるバッテリーの重量・航続・充電インフラなど、別の制約が前面に出てくるのです。

特に「どれだけの距離を、どれだけの余裕を持って飛べるか」は、運航設計とセットで語る必要があります。

用語の定義を押さえるうえでは、公的機関の説明が参考になります。FAAは、Advanced Air Mobility(AAM)を、一般に高度に自動化され、電動で、垂直離着陸能力を持つ航空機を含む概念として紹介しています。
(出典:FAA「Advanced Air Mobility | Air Taxis」

このように、垂直離着陸ができる飛行機といっても、目的と方式で性格が大きく変わります。その中でF-35Bは、ステルス戦闘機としての性能とSTOVLを両立した希少な存在として位置づけられるのです。

垂直離着陸という一語でまとめず、どの方式で、何を優先し、何を犠牲にしているのかを押さえると、機体の評価軸がぶれにくくなります。

F35Bの垂直離陸~仕組みと運用の現実~

f35垂直離着陸機を背景に笑顔で人差し指をたてる女性自衛官
ボクのヒコーキ・イメージ
  • 短距離着陸の種類と違い
  • 垂直離着陸機のデメリットを整理
  • F-35Bの弱点は何ですか?
  • F-35Bの通常離陸の騒音は?
  • いづもはF-35Bを何機搭載できますか?
  • 【まとめ】F35Bの垂直離陸~仕組みを総括~

短距離着陸の種類と違い

短距離着陸という言葉は、文脈によって指している内容が変わるため注意が必要です。F-35Bは通常の滑走路着陸もできますし、垂直着陸もできます。また艦上運用では、SRVLと呼ばれる滑走しながらの回収手法が議論・試験されてきました。

着陸形態を混同しないために、まずは種類を整理しましょう。

通常(滑走)着陸

一般的なジェット機と同じで、滑走路へ進入して接地し、ブレーキで減速して停止します。機体への負荷が比較的小さく、騒音面でも垂直着陸より抑えやすい運用になりやすいです。基地運用では、平時はこの通常着陸を基本に組み立てる考え方が採られやすくなります。

垂直着陸

滑走距離がほぼ取れない環境でも降りられるのが利点です。一方で、熱と騒音の負荷が大きく、着陸重量にも制約が出やすい側面があります。任務後で軽くなった状態で実施しやすいのは、この制約を緩和できるためです。

SRVL(Shipborne Rolling Vertical Landing)

SRVLは、垂直着陸ほどではないにせよ低速で前進しながら、垂直推力も併用して短い距離で回収する考え方です。狙いは、垂直着陸より重い状態で戻れる可能性を高めることにあります。艦上での運用設計、誘導装置、パイロットの訓練体系など、必要要素が増えるため、どの国がどこまで標準化するかは運用方針に左右されます。

着陸方式は、万能の正解があるというより、基地・艦・周辺環境・安全余裕を踏まえて使い分けるのが現実的です。F-35Bの強みは、状況に応じて選べるカードが多い点にあります。

垂直離着陸機のデメリットを整理

f35垂直離着陸機を背景に困り顔の女性自衛官
ボクのヒコーキ・イメージ

垂直離着陸機のデメリットは、固定翼機の効率の良さを、垂直能力のためにどこまで犠牲にするか、というトレードオフに集約されます。F-35Bの理解にも直結するため、一般論として押さえておくと整理が進みます。

燃費とペイロードの制約が出やすい

垂直離陸は機体重量を推力で支えるため、燃料消費が跳ね上がります。結果として、航続距離や搭載量にしわ寄せが出ます。STOVL機が短距離滑走を多用するのは、翼の揚力を使って効率を回復させる合理的な選択でもあるのです。

機構が複雑で整備負荷が増える

推力偏向機構、リフトファン、開閉扉、クラッチや駆動系など、通常機にはない要素が増えます。部品点数が増えれば、点検項目や整備時間が増える方向に働きやすく、運用コストの上昇要因になるからです。

熱・騒音・ダウンウォッシュの環境負荷

下向き噴流は路面や甲板への熱影響、砂塵の巻き上げ、周辺への騒音負荷を強めます。そのため都市部や基地周辺での運用では、時間帯や回数の調整、防音対策、耐熱対策など、機体以外の対策もセットで必要になります。

操縦と安全管理のハードル

垂直モードは乱流や横風の影響を受けやすく、遷移局面の管理も含めて安全管理が難しくなりがちです。近年の機体はコンピューター制御で負担を下げていますが、運用上の訓練と手順整備は欠かせません。

このように、垂直離着陸は便利な能力である一方、コスト・性能・環境負荷の面で代償が伴います。F-35Bは、その代償を受け入れてでも得る価値がある用途に向けて設計された機体だと捉えると理解できるでしょう。

F-35Bの弱点は何ですか?

弱点をつかれてダウンするプロレスラー
ボクのヒコーキ・イメージ

F-35Bの弱点は、STOVL機構を抱えることによる構造的な制約と、先進的システムを維持する運用面の負担に分けて整理すると見通しが良くなります。強みが明確な機体ほど、弱点もまた設計思想から必然的に生まれるからです。

燃料・兵装スペースの制約

機体中央にリフトファンを収めるため、同じファミリーでも通常離着陸型と比べて内部スペースの自由度が下がります。燃料搭載量や内部兵装庫の容量に影響が出やすく、ステルス性を優先して機内搭載に絞ると、搭載できる兵器の数と種類に制限が生まれるのです。

垂直運用に伴う重量マネジメント

垂直着陸は便利ですが、着陸重量の制約と常に向き合う必要があります。帰投時に燃料や兵装をどれだけ残せるかは、状況や運用ルールに左右されます。SRVLのような手法が注目されるのも、回収時の重量余裕を少しでも増やしたい、という現実的な課題が背景にあるからです。

整備性とコストの重さ

STOVL機構は機械的に複雑で、整備計画や部品供給体制の影響を受けやすくなります。加えて、ステルス機特有の外装・センサー・ソフトウェアの維持も必要です。結果として、飛行時間あたりのコストや稼働率の確保が課題になりやすい傾向があります。

熱と騒音の運用制約

垂直着陸時の熱負荷は、機体側だけでなくインフラ側にも対策が必要です。耐熱舗装や耐熱コーティング、運用エリアの確保といった周辺整備が必要になり、導入先の条件が問われます。騒音も運用ルールと一体で考えるべき要素になります。

以上の点を踏まえると、F-35Bの弱点は単なる欠点ではなく、短距離運用という独自価値を得るために背負った制約だと分かります。どこで使うかがはっきりしているほど、納得感のあるトレードオフになります。

F-35Bの通常離陸の騒音は?

騒音に耳をふさぐ住人たち
ボクのヒコーキ・イメージ

F-35Bの騒音は、基地周辺への影響を考えるうえで避けて通れないテーマです。国内では、防衛省が基地周辺向けに訓練の実施要領や騒音の目安を示した資料を公表しており、通常離陸の騒音値は概ね135デシベル程度と説明されています。

ただし、騒音は数字だけで一律に語れない面もあります。距離、風向、気温、地形、測定位置、機体の運転条件によって体感と測定値が変動するためです。理解のポイントは、どの場面でどの種類の騒音が問題になりやすいかを整理することです。

通常離陸と短距離離陸の見え方

短距離離陸はノズル角度を使って揚力を補うため、動作としては特殊に見えますが、エンジン出力そのものは高い領域を使うことが多く、離陸時のピーク騒音が大きくなりやすい点は共通です。資料上も、通常離陸と同程度のオーダーとして扱われることがあります。

垂直着陸は時間当たりの負荷が大きく感じやすい

垂直着陸は、ホバリングや降下の局面があり、騒音が続く時間が長く感じられやすいのが特徴です。数値だけでなく、音の継続時間と低周波成分の体感が住民負担に直結することがあります。国内でも、訓練回数や時間帯の配慮、負担軽減策の提示がセットで議論されてきました。

数値は目安として捉え、条件を併記する姿勢が大切

135デシベルという値はインパクトが強い一方で、どの距離・どの条件・どの運転モードかを併せて理解する必要があります。運用の現実としては、飛行経路、時間帯、訓練内容の組み合わせで影響を抑える設計が行われるからです。

したがって、F-35Bの通常離陸の騒音は大きいという前提のもと、どの訓練をどの頻度で実施するか、どう分散させるかが運用上の焦点になります。

いづもはF-35Bを何機搭載できますか?

f35戦闘機を積載して航行する海上自衛艦いずも
ボクのヒコーキ・イメージ

いずも型でF-35Bを何機運用できるかは、単純な最大収容数では決まりません。格納庫の使い方、甲板上の配置、同時に搭載するヘリコプターの機数、整備区画や補給・弾薬運用、人員体制など、艦としての運用設計で実態が変わるからです。

そのうえで一般に語られる目安としては、1隻あたりおおむね8〜12機程度が現実的な運用上限として挙げられることが多いです。12機は甲板・格納庫をかなり詰めた最大寄りの見方で、常時運用の現実解としては8〜10機前後を想定する議論がよく見られます。

改修の進展と艦上運用試験

いずも型は、F-35Bの運用を見据えて飛行甲板の耐熱対策や艦首形状の改修などを進め、実際に艦上運用に関する検証・試験も行われています。海上自衛隊は、いずもでの検証作業や、かがでの艦上運用試験の実施を公表しており、短距離発艦や垂直着艦などのデータ収集が進められています。

搭載数の考え方を表で整理

搭載機数の見え方は、何を優先するかで変わります。以下、目安を把握しやすいように整理しました。

置き方の考え方F-35Bの目安想定される特徴
航空運用を優先10〜12機程度発艦回転を重視し甲板運用が過密
バランス重視8〜10機程度ヘリ運用や整備余裕を確保しやすい
訓練・検証中心もっと少数データ収集や安全余裕を優先しやすい

いずも型の価値は、常時大量の艦載機を載せる大型空母とは違い、必要に応じてF-35Bを運用できる柔軟性にあります。その柔軟性を成立させる現実的な搭載規模として、8〜12機程度というレンジで語られやすい、という捉え方が理解しやすいです。

【まとめ】F35Bの垂直離陸~仕組みを総括~

戦闘機のぬいぐるみを持って微笑む女子高生
ボクのヒコーキ・イメージ

この記事のポイントをまとめます。

  • F35Bの垂直離陸の仕組みは前後推力配分が核となります
  • リフトファンが機体前方を冷たい推力で支えます
  • 後部回転ノズルが熱い推力で機体後方を持ち上げます
  • ロールポストが左右の傾きを噴流で細かく整えます
  • 垂直モードはコンピューター制御が安定化の前提です
  • 垂直離陸は燃料と兵装を削らないと成立しません
  • 実運用の離陸は短距離滑走で翼の揚力を活用します
  • 垂直着陸は帰投後が軽くなり実施しやすい運用です
  • 垂直着陸は熱と騒音の負荷が大きく対策が必要です
  • 短距離離陸距離は重量や風で大きく変動します
  • 着陸は通常滑走と垂直着陸を状況で使い分けます
  • SRVLは重い状態で回収する選択肢として注目されます
  • F-35Bの弱点は航続距離や搭載余裕と整備負担に出やすいです
  • 通常離陸の騒音は資料で概ね135デシベルと示されます
  • いずも型の搭載目安は運用次第で8〜12機程度と見られます

最後までお読みいただきありがとうございました。

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